日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.15

Vol.15 Theme : 「真夏に開けるべきは、知覚の扉か、肉体の門か

 

 本格的な夏の到来で、皆さんも日々ヒィヒィ言っていることと存じます……そんな猛暑日の中、わざわざこの重箱の隅をつつくようなコラムをお読みにいらっしゃってる皆さんのために、せめてもの納涼を……お届けするような甲斐性など、俺が持ち合わせているはずもないので、思いっきり暑苦しいのを紹介しましょう。年がら年中、革ジャン・革パン……あるいはロンTに革パン、伸ばしっぱなしの長髪……ほら、ますます暑くなってきたでしょう? 今回はザ・ドアーズをご紹介します。

 60’sマニアには避けて通れない「サイケデリック」の象徴的なBANDにして、数々の伝説やスキャンダルを生み出した世界最大のカルトBAND……ドアーズを形容する言葉は様々ありますが、初めて触れる人にとっては、これほど判りにくく、不親切なBANDもいないでしょう……なにしろVo.ジム・モリソンがたった27歳で逝去してから、間も無く45年という月日が経過しようとしていますし、1曲1曲が長い彼らの曲はラジオやテレビ乗りが悪いので、なかなかその音源を耳にする機会もないと思います。

 楽曲の長さに加えて、ブルースを基調としたサウンドのせいもあってか、ヘヴィーで取っ付きにくい印象を持たれがちだとは思いますが、なかなかどうしてドアーズは非常にPOPなBANDでもあります。MTV的な存在のない時代からミュージック・ビデオを製作するセンス(ジムとKey.レイ・マンザレクは映画学校の同級生)、ジムのちょっとオリエンタルなハンサムっぷりに加えて、ネイティブ・インディアンの動きを取り入れたLIVEパフォーマンスのセクシーさ、そして常に革ジャンか革パンを着用するというこだわりのオシャレさ……現代では当たり前のようなROCK的イディオムを、世界がビートルズに夢中になっていた時期に突然放り込んでスタンダード化させたのも、全てジム・モリソンのおかげなのです。

 インプロが多数を占める、当時としては長尺なアルバムでも、シングル曲はしっかりロマンティックに作り込まれています。最大のヒット曲「ハートに火をつけて」は、ラジオ用に4分近いオルガン・ソロをカットしたヴァージョンも用意していたし、「ハロー・アイ・ラブ・ユー」「タッチ・ミー」等々は60’sのコンパクトなPOPソングの定石を踏まえた上で、ジャズやブルース、ソウルやファンクの要素も加えた非常にハイブリッドな作品になっており、ただただ自分達のセンスを一方的に押し付けるようなエゴイスティックな作品になっているわけではありません……その証拠に? ジムが存命中に発表されたアルバム7枚(うち1枚はLIVEアルバム)は、全て全米チャートのTOP10にランクインされた程の人気っぷり。

 そして何よりドアーズの魅力は、ジム・モリソンの声。響く低音のロウ・ボイスから、高音に駆け上がる時のかすれたシャウトは、声だけでセックス・ドラッグ・ロックンロールを想起させるかのような力強さに溢れています。現代風に言うと<声フェチには堪らない>声質の持ち主なのです。その魅力を本人も知ってか知らずか、朗読の録音も残されていたり、読書家でもあるがゆえ数冊の著作を残した活字好きの彼は、自分の声によく合うセンシティブなワードを選ぶ才能にも長けていました。

 髪や髭をボウボウに伸ばしっぱなしにしたワイルドでセクシーな風貌から放たれる、優しくロマンティックな……時には鋭利な刃物のように鋭く刺さってくるセンスの言葉達……そう、ドアーズの魅力とは、アメリカンなマッチョイズム+ヨーロピアンな知性を同時に両立していたところにあるのではないでしょうか……強く逞しいアメリカと、繊細で傷付きやすいアメリカが混在する不思議……ドアーズへの入口として、どちらから入るかで180度、全く逆の印象を受けるのが、ドアーズの魅力でもあり、逆に初心者からすると入りにくい理由なのかもしれません。肉食女子も草食系男子も、この機会に是非ザ・ドアーズの魅力に触れてみて下さい。真夏のドライブのBGMにもバッチリですよ!

 


 

ジム・モリソン参加の全6オリジナル・アルバムはハイレゾでも配信中!

 

The Doors Strange Days
Waiting for the Sun The Soft Parade
Morrison Hotel  L.A.Woman

 

ザ・ドアーズ 配信一覧はこちらから

 


 
 
【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。